これまでの木質バイオマスのエネルギー利用は暖房・給湯が中心であったが近年では暖房だけでなく、冷房も可能になっている。比較的温暖な地域では夏場の冷房需要が大きく暖房とともに、冷房出来る空調方式が望ましい。
熱を直接利用した冷暖房の方式としては、「吸収式冷温水機」を使う方式の他に除加温によって冷暖房(空調)を補動する「デカント式」がある。木質バイオマスが燃料となっている場合は主に吸収式冷温水機が利用されるが、温水を用いた冷房システムと直接燃焼による冷暖房システムの2つである。
比較的早くから普及している温水を用いるシステムは、木質ペレット等を給湯用ボイラーで燃焼させて70~90℃程度の温水を作り、この熱を一種の駆動力として吸収式冷温水機又は冷温水機で、冷水又は冷温水を作り室内の空調機(ファンコイル)に送り込む方式である。
直接燃焼によるシステムは近年になって普及し始めたシステムで、木質ペレット焚きの「二重効用吸収冷温水機」となる。メリットは前述のボイラー温水を用いた冷暖房システムに比べ熱効率が大幅に改善される。その為消費燃料は少なくて済むが燃焼の安定性や制御性に優れた燃料=ペレットに限られている。
まず、温水・直火焚き共にベースとなっているのは「吸収式冷温水機」である。この吸収式冷温水機はガス・灯油・重油などを燃焼させて7℃の冷水又は55℃程度の温水を作り、冷暖房を行うシステムである。
「熱駆動で冷房する」吸収式冷温水機は冷媒として水、吸収剤として臭化リチウム溶液を使用する。臭化リチウムは水(水蒸気)を強く吸収する性質があり、水は気化潜熱が大きい、という性質を持っている。この2つの液体を別々の容器にいれ、連結すると臭化リチウムは容器内の水蒸気を吸収し蒸気圧を下げる。蒸気圧が低くなれば水は気化して蒸発器の水から気化潜熱が奪われる。更に、容器内を真空にすれば、水は5~6℃の低い温度で気化(沸騰)する事になり、冷水が作られる仕組みである。が、この仕組では吸収剤の濃度が下がる一方で、水蒸気吸収能力を失い最終的には停止してしまう。そこでこの低濃度の吸収剤を加熱濃縮して吸収器に戻す工程と、加熱濃縮工程で蒸発される水蒸気を水の形に凝縮して(戻して)蒸発器に戻す工程を加えると連続的な吸収冷凍サイクルが完成する。
この原理を具体化したのが右図の温水焚き吸収冷温水機である。図では、低濃度吸収剤を濃縮する部分を再生器、再生器から出た水蒸気を凝縮する部分を凝縮器と呼ぶと、このタイプの冷温水機は基本的には、①蒸発器、②吸収器、③再生器、④凝縮器の4つの部屋で構成されることになる。熱源は再生器での吸収剤濃縮のために必要で、ここではペレットボイラーからの温水(熱媒体)を熱源としている。その為直火焚き、蒸気、高温排ガスなどを用いることも出来る。各器は次のような役割を担って吸収冷凍サイクルを完成させている。
第一工程
①の蒸発器では、真空に近い状態(1/100気圧程度)で水(冷媒)をパイプにかけると約5~6℃で気化して水蒸気になる。その時の気化熱によって室内機から運ばれてきた循環水は熱を奪われ約7℃まで冷やされる。
第二工程
蒸発器から送られた水蒸気は②の吸収器で吸収剤(臭化リチウム)に吸収される。吸収液は水蒸気を吸収して薄まり、温度も高くなる。温度上昇は吸収液の水蒸気吸収効率を下げるため、⑥の冷却塔(クーリングタワー)から運ばれてきた冷却水で冷やされる。それと同時に薄くなった吸収液は③の再生器に運ばれる。
第三工程
再生器では、薄まった吸収液を⑤のペレットボイラーで熱された熱媒体の循環パイプに噴霧して水分を蒸発、凝縮された吸収液を再び吸収器に戻すと同時に、蒸発した水蒸気を④の凝縮器に送る。
第四工程
凝縮器に送られた水蒸気は冷却塔から運ばれてきた冷却水で冷やされて水(冷媒)に戻り、再び蒸発器に戻される。
木質バイオマスボイラーの温水を熱源とする吸収式冷温水機システムには次のうような特徴がある。
①冷温水機への熱源温水の供給温度は一般的に70~90℃だが、高温になるほど出力は大きい。定格仕様の温水温度は約88℃、最高温度は約95℃である。設備内容と空調負荷に合わせて最も効率の良い温水温度と冷房出力容量を選定することが望ましい。
②冷温水、冷却水、熱源温水の流量は一定になるように留意する。流量の範囲は、定格流量に対し、冷温水は80~120%、冷却水は100~110%、熱源温水は120%以下とする。
③毎日の運転開始では吸収式冷温水機の再生器温度が低く、設定した熱量以上の熱が入熱される。この場合、温水温度が急激に低下することがあるが異常ではない。吸収溶液の温度上昇には5~10分の時間を必要とし、その後冷水温度が下がり始める。
④温水を熱源とするシステムは他の再生可能エネルギーとの組み合わせが容易で太陽熱を利用した事例が多く有る(右上図参照)。昼間は太陽熱を活用し、夜間や雨天時の太陽熱が不足する場合には木質燃料を活用する温水型吸収式冷温水機を稼働させれば良い。
①木質ペレット直火焚き吸収式冷温水機
②冷暖房能力仕様と木質ペレット消費量
③運転制御
④着火方式
⑤システムの概要と特徴
⑥ペレット直火焚き吸収式冷温水機の構成
⑦遠隔操作と遠隔監視
⑧システム機器の機種構成
⑨ペレット直火焚きシステムの運転
ペレット燃料の補充
灰だし作業